第109回学術大会報告


 第109回日本補綴歯科学会学術大会は,平成15年5月9日(金)〜11日(日)に東京の品川区立総合区民会館「きゅりあん」で, 大会長 石上 友彦教授(日本大学)のもと1900名余りの多数の参加者を得て開催されました.課題講演11題,一般口演48題,臨床口演3題,ポスター発表67題,(含む国際セッション4題)と126題の発表が行われ,さらに特別講演,メインシンポジウム,臨床シンポジウム2,臨床教育講演,研究教育講演,技術・技工セッション,認定医研修と多彩な企画がなされました.


きゅりあん

特別講演 「いい笑顔−コンピュータで探る−」

 「いい顔にうつるテレビ電話がどうすれば作れるか」というところから研究が始まった原島博先生(東京大学)の顔学者としての講演であった.会場では実際に先生が使われるいろんな表情を作ることができるソフトのデモをおこなったり.多数の顔を重ねて平均顔を作ってみたり,100年後の平均顔をシミュレートしたり等,コンピュータを用いて顔についていろいろな解析をされた.その中で職業や時代によって平均顔が異なり,環境や気のもち方で顔はずいぶんと変わってくるということが説明された.また写真家の撮った写真やプリクラの例を用いて,いい顔はコミュニケーションする中で作られることが説明された.逆に免許証やスピード写真のような機械的な撮影では,いい顔を作るのは難しいとのことであった.さらに先入観というのも顔の印象をよくも悪くもする因子であり,それは先生が考案された「顔訓13ヶ条」にある,「いい顔悪い顔は人から人へ伝わっていく」という言葉にあるように顔とコミュニケーションとの間に重要なかかわりがあるという解説であった.いい顔を実践するために非常にためになる,また楽しい講演であった.

(広報 諸井)





原島先生

メインシンポジウム「形態・機能美からトータルな美へ」

 座長の大山会長の意向で参加者に配布するための各シンポジストの文献などの参考資料が冊子体として配布されてシンポジウムが始まりました.トップは東京芸術大学美術学部の宮永美知代先生で,多数の西洋絵画を参照しながら,明暗の表現や絵画のなかに表現された時間を内包する『微笑』の意味,かたちの構築,リズムなど,美術に表現された『微笑』を軸に、光と陰、記憶、歪みに潜む美について説明され, 次に同じく芸大を卒業され,現在日本歯科大学歯学部歯科矯正学講座の教授中原リザ子先生が 「自然に内在する美の法則」「美は快を生じる積極的な価値である」 「視覚の幼児期における固定」 「視覚の捉える顔面の構造,特に"地と図"の原理」 「視覚の原理を阻害する口蓋裂、各種の不正咬合について」説明され,自然の法則と生存に有利な形質に反応して、あるものは快感をもたらような脳内への刷り込みが、進化の長大な時間をかけて行われたことが想定され,【美】とは、このような取り込められた外界の秩序に反応して快を覚える仕組みのひとつなのではないだろうかと結ばれました.このお二人の美を表象する原理,原則などの基本的な講演を受け,歯科医療の最前線で活躍されておられる臨床医の筒井 昌秀先生は「補綴処置は形態・機能・審美を満足させるものでなくてはならないし,顎口腔機能のみならず全身の機能回復に役立つ行為であるが、同時に置換医療であり、生体にとっては負の行為であることを認識しなければならない」とのスタンスで様々な症例を通し,審美とトップトダウンリートメントの関連性について講演されました.ラストの岩手医科大学教授の石橋 寛二先生は「人の活動が身体的、精神的、社会的に調和のとれている上で成り立つものと考えるなら、現代社会における補綴の意義にも通じる内容と理解でき,それは、特にコミュニケーションをサポートする歯科医療の価値と言いかえることができる.このコミュニケーションに欠かせないのが表情−アイデンティティで、補綴は創造性に溢れた個性を演出する重要な役割を担っている.顎口腔領域における審美の意義は、健康寿命の延長を目指した新しいライフスタイルの構築を支援するところにある」とこのシンポを締めくくられました.「美」の根源,自然法則,深遠さ,文化・社会との関わり,歯科医療の意味など多くのことを考えさせられるシンポジウムでした.

(広報 冲本)




左から石橋先生,筒井先生,
中原先生,宮永先生

臨床シンポジウム1「磁性アタッチメントを用いた補綴臨床」


 座長の細井紀雄先生による,磁性アタッチメントの補綴臨床への改良,応用などの時代背景,日本発の技術であることなどについてのミニレビューで本シンポジウムが始まった。
星合和基先生からは,「術後調査から見えてくるもの」というテーマで,長期に渡る術後観察から一口腔単位で見た場合の利用方法(適応症,禁忌症,設計など)について,臨床例を交えて,磁性アタッチメントの使用方法について話された。
 誉田雄司先生は,「磁性アタッチメントの臨床―鋳接からダイレクトボンド法へ―」というテーマで,ダイレクトボンド法,レーザー溶接法などの新しい技術の開発の経緯,紹介と,クラウン形態で使用する可撤性ブリッジへの応用例を,それぞれ臨床例で示された。
木村幸平先生は,「白金鉄系磁石合金の可撤式クラウン・ブリッジへの応用」のテーマで,可撤式クラウン・ブリッジのユニークな新技術の開発を紹介された。すなわち,永久磁石合金を用いて外冠を,磁性ステンレス鋼を用いて内冠を,それぞれ歯科鋳造にて作製し,外冠自体が磁石となるものであり,基礎的検討結果と現段階での臨床例を報告された。
 いずれも,現在までの貴重なるご報告,ご検討がなされ,磁性アタッチメントを用いた補綴臨床の将来への示唆に富む素晴らしいご講演であった。さらに質疑応答では,磁性アタッチメントの現状での問題点,予後などについて活発な討論がなされ,将来に向けて多くの有益な示唆を与えたシンポジウムであった。

(広報 貞森)




臨床シンポジウム2 「SDA(短縮歯列)のコンセプト−その運用と限界−」

 大会2日目(第2会場にて),'SDA(短縮歯列)のコンセプト -その運用と限界-' と題して臨床シンポジウム2が行われた。SDA(短縮歯列)のコンセプトは後方歯の欠損をあえて補綴しないことであり,1981年以来Kayserらによって広められた.このシンポジウムでは、大野純一先生(スウェーデンデンタルセンター),小宮山弥太郎先生(東関東支部),山下秀一郎先生(松本歯科大学)の3名にご講演いただいた。
 まず,座長の五十嵐順正先生(松本歯科大学)は,後方歯欠損患者の治療方針について,Gotebory近郊の歯科医師と当学会評議員のデータ比較を示すとともに,SDAか義歯補綴をするか鑑別診断が大事であると述べられた.
 大野先生の講演はGotebory大学での経験を交えながら,スウェーデンではSDAは治療ゴールの一つのオプションと考えられ,その背景にはメインテナンスシステムが整い,日本とは異なった社会/医療制度であることを紹介された.
 続く小宮山先生は,日本人の場合人種的な解剖学的差異や食材の違い,また食に対する思い入れなどが影響し,後方歯の補綴治療は「奥歯でものを噛みしめる」という自信の回復につながると述べられた.
 また山下先生は,咬合支持の喪失と下顎頭の変位との関連性について実験的データを示しながら,ハイ・リスク群とロー・リスク群に大別でき,主観的評価と客観的評価から処置方針の分岐点となる基準について述べられた.
 最終的に,SDAに対する当学会としての統一見解が必要であるということでシンポジウムは終演した。

(広報 松山)





大野先生


山下先生と小宮山先生


臨床教育研修 「診療ガイドライン」

 2002年に作成された3つの診療ガイドラインについて,ガイドライン作成委員会の委員長であった河野正司先生の座長でガイドライン作成に携った先生方にそれぞれ解説していただいた。
当時の学会長である川添尭彬先生からは総説としてガイドラインの必要性と役割を講演いただいたのち、咬合異常の診療ガイドラインについて皆木省吾先生(岡山大学)、顎機能障害の診療ガイドラインについて中野雅徳先生(徳島大学)、咀嚼障害評価法の診療ガイドライン−主として咀嚼能力検査法−について小林博先生(新潟大学)により各診療ガイドラインの解説がされた。
 川添先生からは3つの分野が選ばれた理由について病名の重要性に触れられ補綴で頻繁に用いられる欠損に代わる病名の必要性を解説された。
 皆木先生からは咬合異常は一部の矯正治療を必要とするもの以外の多くは補綴の領域であるという強い認識を新たにしてほしいという発言があった.
 中野先生からは顎機能障害についてエビデンスは不足するがある程度コンセンサス得られており、またこの診療ガイドラインによってまだ未熟な臨床家がボトムアップをしてほしいという旨の発言があった.
 最後に小林先生から咀嚼能力検査法の臨床ガイドライン作成の過程について解説があり、大山会長の提唱するチェアサイドでの検査の確立に通じる旨の発言があった。

(広報 諸井)





左から小林先生,中野先生,
皆木先生,川添先生
研究教育研修 「医療における物語と対話−EBM vs NBM(ナラティブ・ベイスド・メディスン)−

 大会初日(第2会場にて),'医療における物語と対話 -EBM vs NBM(Narrative Based Medicine)-'と題して研究教育研修が行われた。今回は,過去3回の研究教育研修'EBMシリーズ'を受け,佐藤裕二先生(昭和大学)の企画によるものである. Narrative とは「物語り」のことであり,NBMとは臨床における物語りと対話を示す.『Narrative Based Medicine : Dialogue and Discourse in Clinical Practice』の日本語版の監修者である山本和利先生(札幌医科大学)と斎藤清二先生(富山大学)両名から,この新たなNBMの概念や実際を,EBMとの関係を交えて紹介いただいた.
 山本先生は,'EBM と NBM'は'科学性と人間性'に言い換えられ,たとえ統計学と臨床疫学を駆使したEBMであっても,evidenceが患者に当てはまる部分は25%以下であり,残りを補う手法のひとつがNBMであり,患者の「語り」を通じて患者の信念にアプローチすることとであると講演された.また,医学には科学性のみ,医療には科学性と人間性を必要とし,そのために医療従事者はステレオタイプではなく,フレキシブルであり,患者と新たな物語りを作りながら患者中心の医療を目指すことを促された.
 斎藤先生は'EBM と NBMは車の両輪'で,患者と治療者の対話自体が治療の重要な一部であり,それに科学的根拠を加えていく手法を,臨床例を交えて示された。そして,われわれ医療従事者は、患者を「対象」ではなく「主体」として捉え,目の前の患者の最大幸福に焦点をあてるべきことが力説された.

(広報 松山)








技術・技工セッション 「歯冠色補綴における美の追求』


 技術・技工セッション 『歯冠色補綴における美の追求』は,学会2日目の15:30から第2会場において開催された.メインシンポジウムが同時進行で行われていたため,参加者はやや少な目であった.
 まず座長も努められた末瀬先生は,『補綴における美の追求』と題して,技工士の新しい役割・身体(歯)にやさしい新材料・生きた補綴装置などについて講演された.
 2番手の木村先生は,『インプラント上部構造における歯冠色と形態の再現法』と題して,動画を駆使した目を引く臨床例を呈示された.
 3番手の永野先生は,『固定性補綴装置における歯冠色と形態の再現法』と題して,院内ラボの立場から,シェードテイキングの現状について講演された.
 最後に,六人部先生は,『歯冠色補綴における色調・形態・機能の調和』と題して,歯科医師の立場から審美性を重視した窩洞形成法やティッシュマネージメントについて講演された.
 ディスカッションでは,会場から質問があり活発な討議がなされたが,最終的にはどの先生も『歯冠色補綴における美の追求』には患者・歯科医師・技工士の血の通ったコミュニケーションが必要であると強調された.

(広報 M野)





感謝状授与
認定医研修 「社会に応える本学会の認定医・専門医とは」

 平成15年5月11日(日)に、第8回認定医研修会が品川区立総合区民会館「きゅりあん」にて開催されました。今回は、"社会に応える本学会の認定医・専門医とは"とのテーマで座長に平井敏博先生(北海道医療大学)、講師に豊田 實先生(神奈川歯科大学)、築山能大先生(九州大学)、鈴木卓哉先生(岩手医科大学)をお招きして講演が行われました。
 最初に座長の平井先生から、医科における専門医の現在の状況が説明され、厚生労働省の告示により、法人格を有する学会が認定した専門医資格を広告可能になったことを受け、補綴学会においても大山喬史・新会長のもとで法人化を目指しているとの説明がありました。続いて、豊田先生が("補綴認定医の社会に対する貢献と今後の方向性について")、現在までの本学会の認定医制度の歩みについて概説され、議論されている認定医資格の要件と専門医資格の要件とでは大きな差異は見られないのではないかとの発言がありました。次に、築山先生が("認定医を習得し、後輩を指導する立場から")、実際にケースプレゼンテーションを行って認定医を修得した体験から、その実際の How to を提示され、本学会のホームページからの資料なども示していただき、米国との比較も交えて話されました。最後に鈴木先生が("認定医であることが臨床の場でどう関わるのか")、ご自分の行われたプレゼンテーションの症例を示されるとともに、補綴科の外来に来られた患者さんのアンケート調査を発表されました。その結果の中で、「認定医」を知っていた方が30名中4名であったと報告があり、本学会としても"補綴"という言葉の認知度の向上を図ることと共に何らかの手を打つ必要があるのではないかと思われました。その後、川添堯彬・前会長、石橋寛二・前認定審議会委員長の追加発言の後、ディスカッションとなりフロアからは大変活発な意見がだされました。矢谷博文・認定審議会委員長の発言の後、最後に大山喬史・会長が今後も継続して検討し、早い時期に法人化を実現したい旨の挨拶があり、終了しました。

(広報 北川)







認定医ケースプレゼンテーション

課題口演コンペティション受賞者

1-1-5 家庭用DVカメラを用いた簡易型顎運動計測システムによる咀嚼運動の計測
○絹田宗一郎,若林一道,荘村泰治,小島哲也,長尾光理,松村響子,瑞森崇弘,中村隆志,高橋純造 (大阪大院)

1-1-6 ヒトの自由咀嚼運動中にみられる二つの嚥下反射
○岡田 淳,本間美和子,野村修一,山田好秋 (新潟大院)

1-1-8 口内法X線写真による海面骨力学的特性の推定
○永井伸カ,是竹克紀,中島 克,伊丹宏之,佐藤裕二*,赤川安正 (広大院,*昭和大)

1-2-7 チタン表面における骨芽細胞のcadherin遺伝子発現の動態
○正木千尋,山中威典,細川隆司,赤川安正 (広大院)

1-2-8 チタン抗菌処理法
○石田和寛,二川浩樹,西村正宏,西村春樹,福島 整,青木美枝,尾崎由衛,山城啓文,浜田泰三 (広大院)

1-2-9 チタン上での骨芽細胞分化および石灰化におけるCbfal遺伝子の関与
○波多賢二,山下健次,市田文孝,久田邦博,西村理行,米田俊之,池邊一典,野首孝祠 (大阪大院)








ポスター会場
デンツプライ賞

1-3-20 切歯路から側方滑走運動時の作業側下顎頭の運動様相をみる−下顎頭骨変化の有無による検討−
○細貝暁子,河野正司,子田 浩 (新潟大院)

1-3-24 咀嚼運動が脳循環系に及ぼす影響
○長谷川陽子,小野高裕,堀 一浩,野首孝祠 (大阪大院)

2-3-12 突然変異型アルカリホスファターゼD289Vの細胞生物学的解析
○石田陽子,河野正司,織田公光 (新潟大院)

2-3-27 閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群に対する下顎前方位型口腔内装置の効果
○猪子芳美,原田美紀,清水公夫,大沼智之,森田修己,河野正己 (日歯大新潟)

2-3-28 咬合平面の左右的傾斜と重心動揺の関係
○伊山愼二,石川利一,築山能大,古谷野 潔 (九大院)

2-3-30 平衡側接触が側方限界運動へ及ぼす影響
〇川口貴穂,重本修伺,坂東永一,薩摩登誉子,郡 元治,竹内久裕,北村万里子,石川輝明,中野雅徳 (徳大)




108回大会デンツプライ賞受賞者