第110回学術大会報告
平成15年10月24日(金),25日(土)開催


学術大会長挨拶

学会長からのメッセージ


学会会場 長野県県民文化会館


特別講演
「ハイリスク患者への歯科治療」


 特別講演講師に予定されていた田中康夫県知事の不都合により,急遽,講師となられた笠原 浩先生(松本歯大院)の講演トピックスは,有病高齢者には特有のリスクが存在し,それにいかに対応すべきかということであった.歯科的介入によって重大な症状を招く可能性が多いことを認識する必要があること,歯科での重大な医療事故は新患や急患で起こる確立が高いため,処置に入る前に必ずバイタルサインをとる習慣性を身につけることが事故防止につながること,また急激な循環動態の変化やショックなどの危険な状態を引き起こす引き金となる「痛み」の回避を計るため,患者の不安や恐怖などの精神的ストレスを緩和する思いやりとともに,確実な無痛法のマスターが大切であることを述べられた.高齢社会における歯科医療に対しての警鐘であった.

(広報 冲本)


笠原 浩先生


シンポジウムI 
「咀嚼筋に下顎位を語らせる」


 シンポジウム1では「咀嚼筋に下顎位を語らせる」として河野正司先生(新潟大学大学院)を座長に,森本俊文先生(松本歯科大学)と平井敏博先生(北海道医療大学)の講演が行われた.
 まず座長の河野先生から2つの咬合挙上症例を提示され,2cm近い咬合挙上に本当に筋は適応するのか,咬合の挙上をすべきかどうかの判断はどう行えばよいのかという問いが投げかけられ,2人の講師の先生のお話が始まった.
 森本先生から「咬合高径と筋感覚」という演題で講演がなされ,下顎位感覚を利用した義歯の咬合高径決定法について解説があった.スクリュージャック法を用いて咬合高径を高いほうから徐々に低くしていく場合と,逆に低いほうから徐々に高くする場合では,ちょうど良い高さだと患者が感じる位置(上弁別位置と下弁別位置)にある程度のギャップ(Comfortable Zone; CZ)があり,最適な咬合の位置は違和感を感じない範囲であるCZの上弁別位置寄りに存在することがわかったこと,このことはモルモットやウサギを使った動物実験からも証明され,筋紡錘から伝えられる刺激が咬合高径の決定に重要であることが示された.
 次に平井先生から「下顎は筋が動かす―歯科補綴臨床における下顎位の設定―」という演題で講演がなされ,下顎運動が直接的には三叉神経系によって制御されているが,その働きが脳の広い範囲と関連している可能性について解説された.咀嚼機能の低下がアルツハイマー病の危険因子の一つといわれており,咬合がQOLにとって非常に重要な意味を持つことが示された.下顎半側切除の症例や義歯床縁形態の付与とともに苦労した症例等が提示され,補綴装置の如何に関わらず,患者に付与する下顎位が正常な筋機能を保証し引き出すものであることが大事ということを述べられた.
 また,討論では,機能と形態について,いい状態にあればおのずと形態も整い,機能と形態は一致するとの意見でまとまった.

(広報 諸井)


シンポジストの平井先生,森本先生


シンポジウムII
SDA(短縮歯列)のコンセプトーその運用と限界:その2 「科学的・多角的データによる検討」


 本シンポジウムテーマは109回大会の続編であり,多数の会員の関心を集めたこの問題に対していっそうの論議が必要ということで企画されたものである.
 まず座長の五十嵐順正先生(松歯大)により,前回のシンポジウムの概要,IADRでのシンポジウム,外国でのリサーチの開始などの情報が披露された.
服部佳功先生(東北大院)の講演は,力学的観点から,残存歯,顎関節などに対する機能力の変化を,現在までのデータから詳細に考察された.続く山下秀一郎先生(松歯大院)の講演では,SDAに対する処置方針の分岐点となる基準にアプローチがなされた.主観的評価,客観的評価を把握することが大事であり,疫学的な調査と咬合支持と下顎変位との関連性の実験から考察された.荒井良明先生(新大)は,可撤性義歯装着が咀嚼から嚥下までのトータルな機能への影響の検討が大事であることと,遊離端欠損の咀嚼機能に及ぼす影響について論じられた.笛木賢治先生(東医歯大院)は,現在までの研究のレビューと,可撤性補綴装置で補綴する際の回復すべき歯列の長さについて論じられた.いずれの講演もインパクトのある素晴らしいものであった.
この問題には,歯科補綴学の根幹に関わる部分もあることが披露されており,今後とも本テーマは,さらに科学的・多角的に検討され,コンセンサスを得て行かなければならない問題である.

(広報 貞森)

シンポジストの笛木先生,荒井先生,山下先生,服部先生 座長の五十嵐先生

臨床教育研修
「パーシャルデンチャーの設計方針について」

 「パーシャルデンチャーの設計方針について」 と題して臨床教育研修が行われ,石上友彦先生(日大)を座長として,馬場一美先生(東医歯大院),澤田宏二先生(新大院),池邉一典先生(阪大院)の3名にご講演いただいた.
 まず石上座長が,臨床では部分床義歯の設計は歯科医師の経験に委ねられていて,本研修の目的は,その経験の裏付けとなる要素を整理し,バランスのとれた設計やその一助となる得る臨床的指針を示すことであると述べられた.
 馬場先生は,まず北米の調査結果から,義歯設計は技工士任せの場合が多く,これは卒前教育の不足のためと言及された.そして教育プログラムの充実のためには義歯設計の標準化が必要であること,また設計原則は義歯の垂直性遠心回転,水平性遠心回転,頬舌回転の3つの運動様式の制御であり,近心レストとエンブレジャーフック,反対側には双子鉤という設計の具体例を示された.
 続く澤田先生は,義歯設計の三要素は「力」を考慮すると支持,把持,維持の順番となり,その根拠と設計手順について教室の研究データをもとに述べられた.支持はレストの要件と力の伝達を考慮すること,把持は隣接面板や小連結子を三次元的に考えること,維持は回転軸の集中部よりも前方に間接支台装置を設置することなどを示された.
 最後に池邉先生は,長年の教室の研究とアイオワ大学での経験をもとに,噛める・咀嚼できる義歯の大切さを強調された.具体的には咬合,つまり排列位置を考慮してレストと義歯床に支持機能を持たせ,次に把持機構,最後に維持機構と設計を進めると述べられた.また,補綴前処置の必要性も力説された.
 以上のように各講師の講演内容はいずれも,部分床義歯設計の基本方針を順序立てて,科学的根拠をもとに具体例を示したものであり,卒後間もない者にも非常に理解しやすく,また経験豊かな者には再確認を促した,有意義な臨床教育研修であった.

(広報 松山)


講師の池邊先生,澤田先生,馬場先生


研究教育研修
「質的研究と歯科医療―質的研究は歯科医療に何をもたらすか―」

 研究教育研修シリーズの最後として,"質的研究"を取り上げられ講演が行われた.最初にこのシリーズを企画し座長でもある佐藤裕二先生(昭和大)から,過去のエビデンスシリーズの総括として,エビデンスを「創る」,「測る」,「使う」,そしてそれに続くEBM と NBM の概説がなされた.
 講師の大谷 尚先生(名古屋大)は質的研究における日本の第一人者であり,最初に質的研究とは何
かという観点から,「星の王子さま」の一説を引用され,"研究対象を,数・量においてではなく質において理解し,それを十分な科学性を有したものにする"という本質的な部分から講演の導入がされた.  そして,私たちが日常的に行っている量的研究との比較・系譜と続き,質的研究における実際のデータ採取・作成・分析・理論化の方法が提示された.さらに,大谷先生が今回の学術大会の抄録を読まれたなかで,質的研究手法がすぐにでも採用出来そうなテーマとして,"患者-医師関係"(患者-医師関係についての思考実験・九大院グループ)と"主観的症状の推移"(顎関節症の主観的・客観的症状の推移・岡大グループ)の2つをあげられた.最後に「質的研究者は必ず量的研究手法を学ぶべきで,量的研究者も質的研究手法を学ぶ時代にきている」というお話が強く心に残る講演であった.

(広報 北川)

講師の大谷先生 座長の佐藤先生

 


技術技工セッション 
「CAD/CAMシステムによる審美修復の現状―臨床と技工の連携―」


 このセッションでは国内外のCAD/CAMシステムによる審美修復について歯科医師と技工士のそれぞれの立場で解説がなされた.
 国産のシステムであるGN-1について内山洋一先生,渡部貞義先生(北医療大)から解説があった.メラミン歯を形成した模型をもとに実際にGN-1でジャケット冠を制作する手順が示され,ステインなどの比較的簡単な操作で審美的な修復が可能であるとの説明であった.また実際に当大学病院では月に15件ほどと着実に症例件数も増えており有効な審美修復として定着しているようであった.
 次に海外のシステムであるプロセラについて上林健先生(ナチュラルセラミクス),小濱忠一先生(小濱歯科医院)から解説があった.これまで強度的な問題などによりメタルセラミックを第一選択としていた審美修復であったが,十分な強度と光透過性,そしてメタルコアや支台歯のディスカラレーションのマスキング効果を有するコーピングが可能になるなど,審美修復の治療概念と対応方法を変えつつあるとのことであった.
 審美修復の進化や省力化をかなえる両システムであるが,その実力を遺憾なく発揮するためには歯科医師と技工士のコミュニケーションであり,それなくして審美修復はかなえられないということであった.

(広報 諸井)


講師の小濱先生,上林先生,渡部先生,内山先生


認定医研修
「認定医として知っておきたい歯科的対応―ブラキシズム・オーラルジスキネジア・睡眠時無呼吸―」


 学会最終日に,第9回認定医研修会が開催された.
 認定医研修は,「認定医として知っておきたい歯科的対応 ―ブラキシズム・オーラルジスキネジア・睡眠時無呼吸―」のテーマで,座長に皆木省吾先生(岡大院),講師に加藤隆史先生(松歯大総歯研),志賀 博先生(日歯大),菊池雅彦先生(東北大院),鱒見進一先生(九歯大)の4名の先生方をお招きして講演が行われた.
 まず座長の皆木先生から,今回のテーマである3つの顎口腔系機能異常に対して,社会の高度情報化により国民の治療に対する要求が専門的で多様化してきているにも関わらず,我々が系統だった教育を受けていないために,早急に適切な歯科的特に補綴的アプローチを研修する必要があることを示された.
 まず,一番手の加藤隆史先生は,『ブラキシズムの基礎:scienceとdogma』と題して,生理学的観点からブラキシズム発生のメカニズムを検証され,臨床的対応の位置付けについて示された後,臨床症状との関連ついて報告された.
 二番手の志賀 博先生は,『ブラキシズムの臨床』と題して,臨床的観点からまずブラキシズムの原因や症状について詳しく説明された.その後,管理としての治療法(対症療法)を列挙され,その中のスプリント療法や咬合療法は我々歯科の分野で取り扱えるが,適応基準の難しさを示された.
 三番手の菊池雅彦先生は,『オーラルジスキネジア』と題して,その症状を説明され,発症原因により4つに分類された後,歯科的アプローチとして2つの異なる方向性(義歯不適合などの根本的原因を除去するための治療,治療の障害とならないように薬物の投与や変更などを医師に依頼)があることを示された.
 四番手の鱒見進一先生は,『睡眠時無呼吸症候群に対する歯科的対応』と題して,睡眠時無呼吸症候群の定義や疫学・リスク要因・診断法・治療法について説明された後,歯科的対処法としての下顎前方牽引装置の製作方法や治療効果について報告された.
ディスカッションでは,会場からも質問があり活発な討議がなされたが,最終的にはそれぞれの顎口腔系の異常に対して的確な診査・診断を行った上で,歯科的対応が可能な部分においては治療を行い,医科との連携を密にする必要があることが強調された.
認定研修と同時に行われた認定医申請ケースプレゼンテーションでは,2ケースと少なかったものの,いずれもインプラント補綴治療を行った症例で,熱のこもった審査が行われた.

(広報 濱野)


認定医ケースプレゼンテーション会場


110回課題口演コンペティション受賞者

 第110回学術大会より新たな課題「チェアサイドにおける咀嚼・嚥下機能,発語機能評価」が追加され,エントリー総数24題の口演の中から,以下の8演題が受賞した.なお選考は事前に選ばれた選考委員8名の投票により行われた.

(日-会場-演題)         ○受賞者
1-1-4 試験用グミゼリーを用いた咀嚼能率測定法の正確性と再現性
○森居研太郎,池邊一典,古谷暢子,柏木淳平,松田謙一,和田誠大,野首孝嗣(阪大院)

1-1-5 チェアサイドでできる咀嚼機能評価システムの開発
○浅川昭典,笛木賢治,大山喬史,高橋弘之,中田 睦*(東医歯大院,*井上アタッチメント)

1-1-7 チェアサイドで行える咀嚼能力評価法の開発
○本間 済,河野正司,小林 博,櫻井直樹(新大院)

1-1-9 パラトグラムを用い作成した義歯により改善困難な「カ行」を回復した舌切除3症例
○佐々木具文,伊藤秀美,村山 聡,千葉和彦,佐々木啓一(東北大院)

1-1-11 カンジダと誤嚥性肺炎原因菌の共凝集―バイオフィルム形成能と抗菌薬感受性―
○大村直幹,弘田克彦,柏原稔也,永尾 寛,市川哲雄(徳大)

1-2-3 Er:YAGレーザー照射象牙質の脆弱層(レーザースメア層)と接着強さ
○峯 篤史,鈴木一臣,矢谷博文*,吉田靖弘,窪木拓男(岡大院,*阪大院)

1-2-4 骨粗鬆症ラットにおけるチタン周囲骨形成に対する高脂血症治療薬シンバスタチンの効果
○鮎川保則,岡村 亮,安川英輔,古谷野 潔(九大院)

1-2-9 ストレス時における視床下部室傍核の neuronal metric oxide synthase (nNOS)発現と噛む事による影響
○堀 紀雄,木本克彦,青木宏道,湯山徳行,笹栗健一,佐藤貞雄,豊田 實(神歯大)


110回デンツプライ賞受賞者

 第110回学術大会のすべてのポスター発表83題の中から,評議員による投票で以下の6演題の受賞が決定した.

(日-会場-演題)         ○受賞者
1-3-19 ファイバーポストを用いた支台築造の応力解析
○大山龍男,中村俊雄,中村隆志,矢谷博文(阪大院)

1-3-37 異なった補綴装置を装着した高齢者の口腔内環境に関する縦断研究
○田中順子,西川 学,古藤美帆,龍田光弘,田中昌博,川添堯彬(大歯大)

2-3-11 閉塞型睡眠時無呼吸症患者における咬筋筋活動の終夜睡眠ポリグラフによる検討
○猪子芳美,清水公夫,大沼智之,森田修己,河野正己*(日歯大新潟,*いびき診療センター)

2-3-12 岡山大学第二補綴科における顎関節症の初診から終診までの主観的・客観的症状の推移
○M中麻衣,有馬太郎*,阪口貴盛*,皆木省吾*(岡大,*岡大院)

2-3-29 二酸化チタン光触媒応用レジンの開発−抗菌効果について−
〇柴田武士,田中欽也,木本克彦,兼松恭規,澤田智慈,熊田秀文,浜田信城,梅本俊夫,野浪 亨 *,豊田 實(神歯大,*産業技術総合研究所)

2-3-38 Deflection Fatigue of Ti-6Al-7Nb Alloy Cast Clasps
○Mahmoud A, Wakabayashi N, Takahashi H, Ohyama T (Tokyo Medical and Dental University, Japan)



第109回大会デンツプライ賞受賞者

ポスター発表会場