第111回日本補綴歯科学会学術大会報告


 平成16年5月21日(金)〜23日(日),大山喬史大会長のもと文京シビックホールにて第111回日本補綴歯科学会学術大会が開催された.一般口演49題,ポスター72題,課題口演18題,国際セッション口演9題,同ポスター17題,合計165題の発表が行われ,参加者は1900名余りであった.

   



第2回KAP&JPS Joint Meeting報告

 近年本学会は隣国の韓国との学術交流を深めており,昨年ソウルで第1回のKAP(The Korean Academy of Prosthodontics:大韓補綴歯科学会)とJPS(Japan Prosthodontic Society:日本歯科補綴学会)のJoint Meetingが開催された.本年は第2回目として第111回学術大会との併催で行われた.

 

 学術大会2日目(土)に国際セッションが企画され,KAPより口演5題,ポスター9題,JPSより口演4題,ポスター8題が採択され,口演はKAP,JPSより1名ずつがCo-Chairmenとして座長を務め活発な討議が行われた.
 また特別講演としてKAPのIn-Ho Cho会長により"Influence of Implantology on Conventional Prosthodontics in Korea."の題名で韓国におけるインプラント診療の現況が紹介され,昨今のインプラント普及の高いことを窺い知ることができた. 
国際セッションでは口演,ポスターより秀逸な演題1題ずつが選考委員会により選出され表彰された.受賞した演題は口演がソウル国立大学のDr.Chung S-Hらによるインプラントの形状と表面処理の差を動物実験で評価した基礎研究,ポスターが慶熙大学のDr.Lee S-Bらによる磁性アタッチメントとバーアタッチメントを併用したインプラント義歯の臨床研究である.
 KAPからは約50名の会員が参加し,現役役員ばかりでなく歴代会長のAdvisor4名も同行する程,本学会に対する熱意の高さが窺われた.
 国際セッション終了後,会場の文京シビックホール最上階でKAP&JPSの合同レセプションが開催され,KAPの参加者全員とJPS役員等による交流の場が持たれた.
 懇親会ではJPSより大山会長,野首副会長,赤川副会長,川添前会長,早川東京支部長の挨拶,KAPよりCho会長,Chung次期会長の挨拶があり,またJhee KAP Advisorからは流暢な日本語で古き日本の歯科事情,今後の両国間の展望について格調高いスピーチが行われた.
 また,国際セッションの受賞について前記2名の選出が古谷野国際渉外委員長より発表され,プラークと賞金が授与された.
その他,余興としてフルートの二重奏,主催の東京医科歯科大学の伝統古武道である躰道の演武等が行われ,賑やかな会に色を添えた.
 なお今後のjoint meetingは2年おきに両国間で交互に開催することなり,次回は2年後に韓国にて行われる予定である.
 (秀島雅之)



特別講演「審美歯科を美術解剖学・心理学からみる」

 第109回学術大会のメインシンポジウム「形態・機能美からトータルな美へ」に続く『審美』の企画第2弾である.司会は111回学術大会の大会長でありまた109回学術大会シンポジウム座長の大山喬史会長(東京医科歯科大学教授)が務められた,講師は109回に引き続き,東京芸術大学美術学部美術解剖学教室の宮永美知代先生と,新たに早稲田大学人間科学部臨床心理学研究室の山崎久美子先生のお2人である.

   

 宮永先生は『美術から見えてくる顔の魅力』と題し,人が心を惹きつけられる理由を考察する方法として,かたちを分析的に扱い,そこから導かれた要素を問い,かたちの意味を考えていくという美術解剖学の視点から顔の見方を紹介された.
 日常では目鼻口眉などの顔の諸器官の変化である表情を,光と陰のなかでお互いの顔を見ているが,絵画に表現される顔もこれらに強いこだわりを持って描かれたものであるからこそ魅力的であり,それらの自然的ルールとしては,「光は対象人物の右から」「人物は左側が描かれる傾向」「造形では左右非対称で表されることが多い」などがあることを,多数の西洋絵画や日本の伝統的人物画を提示しながら「自画像や肖像にみる魅力的な顔の表現」を解説された.
 『美しさをめぐる心理』と題した山崎先生は,美とは何か.人はなぜ美を追い求めるのだろうという人間心理の原点にたって美の価値観について言及された.
 美人は教育の現場やジャーナリズムで歴史的にどのように扱われてきたかと言う問題について,美人論,美人研究,美人コンテスト百年史などの文献を紐解きながら解説され,時代の変化による目鼻立ちの変化より,風俗史の変化にともなって美人観が変遷してきたことを紹介した.
 さらに現在の「審美歯科」の普及がもたらす効果について,情報社会により,刺激されるコンプレックスとその解消ができる心理的な効果があること,美しさの獲得が身近になり,ますます外的価値を重視する文化になってきたこと,結果として美容産業にお金をつぎ込みこれは消費の拡大につながり,経済的効果をもたらすことなどを述べられた.
 価値観は時代とともに変遷するが,その変曲点としてあげられるのは1980年代の「モーレツからビューティフルへ」であり,さらにダイエットブームに火がつき外的価値が内的価値より優先する文化へ,そして「人より輝きたい」という心理はトレンディな個性的な職種を求めることにつながったのが現在であると解説,また「外的価値=個性的であること」でありその「結果=価値は他人の視線を浴びること」と現在の美の心理は外的価値観にあると分析された.
 あらためて「美」の奥の深さを感じた講演であった.
(広報 冲本)



シンポジウム「8020と補綴臨床」

 大会2日目午後、第1会場にてシンポジウム『8020と補綴臨床』が開催された.福島俊士先生(鶴見大学)を座長に、石井拓男先生(東京歯科大学)、宮地建夫先生(東京支部)、安井利一先生(明海大学)、矢谷博文先生(大阪大学大学院)の4名にご講演いただいた。

 まず座長の福島先生は、このテーマは前2大会の臨床シンポジウムのテーマ『SDA:短縮歯列』との共通部分が多く、「生活の質の向上」という点で深く関連し、「8020運動に補綴は何ができるか」に焦点を絞って論議すると述べられた。
 社会歯科学の立場から石井先生は、老人保健法制定時、歯科が成人保健事業に組み入れられず、そのため『8020運動』を提唱し、今では国民の60%以上に周知される社会現象となったこと、そしてそれは健康増進法の成立の魁となったことなどを述べられた。現在70歳20歯以上の者は30%を超え、なかでも処置歯増加の傾向から、歯科医師の努力によって8020者は増加すると考えられ、「歯科医師の努力が国民の喜びに、国民の喜びが歯科医師の喜びに」という言葉が印象的であった。また、補綴学会に対して口腔機能と全身状態の関係についての科学的裏付けを期待する、と結ばれた。
 続く宮地先生は、80歳28歯や80歳22歯などの補綴長期症例を教示しながら、20歯の臨床的意味、8020の可能性、喪失理由と補綴臨床について講演された。『8020運動』開始当初、20歯は贅沢すぎる数と思われていたが今では安全エリアの必要最小値と考えられること、問題は歯の喪失ではなく咬合崩壊であることを強調された。また、補綴学会が臨床疫学データをもっと大事にし、前面に押し出すことを望まれた。
 3人目の演者である安井先生は、予防歯科学的見地から歯の喪失因子を考察し、なかでも咬合支持の欠如が大きな因子のひとつであることを強調された。つまり、早期の補綴治療は残存歯の喪失リスクを低減させるためにも必要と述べられた。
 矢谷先生は、補綴治療が支台歯の生存に貢献しているか、また他の歯に対してはどうかという2つのクエスチョンに焦点を絞り、文献レビューをされた。しかし、国内の補綴治療の予後成績はほとんど不明であるため、補綴学会主導型のマルチセンター・スタディの必要性とそのための大型の科学研究費獲得の必要性を提言された。
 最後に各演者の学会への提言を再確認してシンポジウムは終演した。本テーマに対する会員の関心の薄さを懸念する声もあり、演者らの提言を学会として、会員としてどう受け止め、対処するかが今後のわれわれの課題であろう。
(広報 松山)



研究教育研修「クリニカルパスと症型分類―日本補綴歯科学会の新たなる戦略:アカンタビリティのある治療を目指して―」

 はじめに,座長の市川哲雄委員長(徳島大学)から,現在医療問題検討委員会で策定中の「クリニカルパスと症型分類」について,会員への周知と,その策定案のコンセンサスを得ることを目的としている本研修の旨が説明された。座長による導入検討の背景の説明から始まり,委員会による症型分類案が以下の順番および内容で各委員により発表された。

座長 市川哲雄委員長(徳島大学)
症型分類1-1(形態的困難度) 秀島雅之委員(東京医科歯科大学)
症型分類1-2(心理社会的困難度) 佐藤博信委員(福岡歯科大学)
症型分類2(能力検査,審美,顎機能の検査法) 服部正巳委員(愛知学院大学)
追加発言者として,宮地建夫(東京都開業),石上友彦(研修教育検討委員会委員長)のご両名が発言された。

  

 発表後,フロアから数名の先生方により質問があった。いずれの質問も,本質的,重要な問題でこれからの委員会の活動に有意義な提言であった。本委員会のテーマは,非常に難しい問題であり,このような症型(障害)分類については,対象となる障害の要素が多岐にわたり,症型(障害)分類を設定する際に問題が多いのは会員にもよく理解されているところである。しかし,症型(障害)分類の設定は,時代の要請にも沿ったもので,早急の対応が是非とも必要と言われている。難易度を決めるのは非常に困難なことは全会員が理解しているところでもあり,修正も前提として,この症型(障害)分類の策定を本委員会が精力的に進めていくことに期待している声が聞かれた。
(広報 貞森)



臨床教育研修「歯科補綴治療における診査・診断」

 「歯科補綴治療における診査・診断」をテーマに若手の研究者を対象にした臨床教育研修が,佐々木啓一先生(東北大院)を座長として,松村英雄先生(日大),細川隆司先生(九歯大),小正 裕先生(大歯大)の3名にご講演いただいた.
まず,座長の佐々木先生が従来のCr-Br,PD,FDという分類から離れて今回のセッションが企画された経緯と方向性について述べられた.
 松村先生は,「接着技法の応用に関する適応症と治療方針」と題してメタルコアからラミネートベニアまでの大変広範囲に亘る補綴装置の表面処理と接着術式,さらには予後について,豊富な臨床例を掲示されながらお話しされた.
続いて細川先生は「インプラント補綴の適応症と治療方針」と題して前日の研究教育研修で取り上げられ,現執行部の重点課題でもある症型分類1-1(形態的困難度)を含んだ最新のトピックスとエビデンスに基づく補綴設計,さらには逆説的ではあるが,ほとんどの症例が適応症であるとの報告がなされた.
 最後に小正先生が,「高齢者の補綴治療における治療方針」と題して現在の日本の高齢社会の現状と歴史的背景,そして高齢者歯科学の実際の治療方針や内容を外来,訪問,さらには短期入院治療まで含めてお話しされた.土曜日最後のセッションで時間も延長していたが多数の先生方が参加され,熱気あふれる研修であった.
(広報 北川)



技術・技工セッション「電鋳システムを応用した歯科補綴装置」

 大会1日目夕刻,第2会場にて技術技工セッション「電鋳システムを応用した歯科補綴装置」が行われた.座長の末瀬一彦先生(大歯大歯科技工士専門学校)より電鋳システムの概略が説明され、引き続き松浦賢治先生(ケンデンタリックス),山本尚吾先生(ショウデンタル)の2人からそれぞれのラボで用いられている2つのシステムについての症例発表が,また渡邉文彦先生(日歯大新潟)からはこれからの可能性についていろいろと興味深い話がなされた.
 今回の講演では電鋳システムのテレスコープシステム外冠への応用について非常に良好な症例をいくつも提示され,従来の摩擦力により義歯を維持するのとは異なり,唾液を介在させ適合の良さと表面の滑沢さを利用した吸着力による維持が可能で,その維持力がほとんど変化しないとのことであった.
 講演後,会場からもたくさんの質問がなされ会員の関心の高さを感じる講演であった.

   

(広報 諸井)



認定医研修「補綴治療の予後に直結する落とし穴―補綴治療と歯根破折―」

 5月23日(日)午前に,第10回認定医研修会が開催された.学会最終日にもかかわらず,300人を超える参加者があり,会場は立ち見がでるほど熱気に包まれていた.今回のテーマと認定医への強い関心のあらわれであろう.
認定医研修は,「補綴治療の予後に直結する落とし穴 ―補綴治療と歯根破折―」のテーマで,座長に三浦宏之先生(東医歯大院),講師に坪田有史先生(鶴見大),柏田聰明先生(東京支部),月星光博先生(愛知県開業)の3名の先生方をお招きして講演が行われた.

 まず座長の三浦宏之先生から,無髄歯の補綴治療における現状とその問題点などについて報告があり,3名の演者の先生方に対して依頼された講演内容を示された.
一番手の坪田有史先生は,『補綴治療失敗の頻度とその原因』と題して,クラウンブリッジの術後経過について,文献レビューによりその分析方法や生存率についてふれられた後,失敗の原因および失敗率について説明され,失敗に対する対策についても言及された.
 二番手の柏田聰明先生は,『歯根破折の原因とその予防』と題して,鋳造支台築造は過去の継続歯の欠点を克服されたものであるにもかかわらず,トラブル症例を観察すると"ツーピース継続歯"に過ぎないと警告された.トラブルに対する予防としては,"咬合力"と"細菌"に抵抗する処置を行うことが重要であると説明され,その具体的な対処法を示された.
 三番手の月星光博先生は,『歯根破折歯の治療方針』と題して,歯根破折の診断法について基本的なものから最新鋭の機器を利用したものまで紹介された後,歯根破折の臨床的分類を示され,それぞれに対する具体的な治療方針をわかりやすく臨床例を用いて報告された.
 ディスカッションでは,座長を中心に討論がなされ後,会場からも質問があり活発な討議がなされたが,その際講演者同士による熱弁が繰り広げられる場面もあり,とても興味深いものであった.
認定研修と同時に行われた認定医申請ケースプレゼンテーションは,重度歯周病に対する補綴症例1ケースとアタッチメント義歯症例3ケースの計4ケースで,熱のこもった審査が行われた.
(広報 M野)



課題口演受賞者

1-1-1強制開口負荷は軟骨細胞のアポトーシスを介してウサギ顎関節の軟骨破壊を引き起こす
○藤澤拓生,笠井昭夫,園山 亘,小島俊司,上原淳二,窪木拓男 (岡山大学大学院医歯学総合研究科顎口腔機能制御学分野)

1-1-2水熱処理した陽極酸化チタン表面上でのマクロファージからのBMP-2遺伝子発現
○武部 純,石岡道久,中里好宏,山崎泰嗣,安達孝二,石橋寛二 (岩手医科大学歯学部歯科補綴学第二講座)

1-1-7チェアサイドでの咀嚼運動検査
○石川輝明,坂東永一,薩摩登誉子,重本修伺,北村万里子, 川口貴穂,細木真紀,大塩恭仁* (徳島大学歯学部第二歯科補綴学教室,*徳島大学医学部・歯学部附属病院総合歯科診療部)

1-1-9チェアサイドでできる寒天篩分法を用いた咀嚼能率測定法の開発とその臨床応用
○築山能大,小原篤夫,古谷野潔 (九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座咀嚼機能再建学分野)

1-2-1ラット臼歯喪失歯数の違いが高次脳機能に及ぼす影響―TrkB mRNA評価―
○山崎 薫子,虫本 栄子,小林 琢也,田中 久敏 (岩手医科大学歯学部歯科補綴学第一講座)

1-2-7義歯装着患者向けに開発した口腔湿潤剤の性質と効果
○菅 武雄, 出崎 聡, 奥野典子, 千代情路, 松嶋利晴, 森戸光彦 (鶴見大学歯学部 高齢者歯科学講座)


デンツプライ賞受賞者

1-3-4繰り返し荷重によるファイバーポスト併用レジン支台築造の検討
○西村 康,坪田有史,大祢貴俊,松本幸文,大塚真範,深川菜穂,橋本興,福島俊士 (鶴見大学歯学部歯科補綴学第二講座)

1-4-4骨シンチグラフィーを用いた義歯床下骨組織の代謝回転
○横山政宣,山口慶一郎*,佐々木洋人,小山重人,伊藤正敏*, 佐々木啓一 (東北大学大学院歯学研究科口腔システム補綴学分野 *東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター核医学研究室)

1-5-58020高齢者と高齢無歯顎者の嚥下動態の比較考察
○吉川峰加,吉田光由,津賀一弘,赤川安正 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科先端歯科補綴学研究室)

2-4-2 Prosthodontic Application of Magnetic Attachment combined with Bar-joint Structure in Implant Dentistry
Lee S-B, Yamamori T*, Tanaka Y*, Ohmiya N* (Department of Prosthodontics, Kyung Hee University Dental College, *Ohu University)

2-4-9 Observation of Microstructural Changes in the Molar Alveolar Bone of Ovariectomized Monkeys
Rezwana BA, Tanaka M, Kohno S, Ikegme M, Watanabe N, Ali M-N, Ejiri S (Division of Removable Prosthodontics, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences)